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広島高等裁判所岡山支部 平成8年(行コ)4号 判決

控訴人

則武明

右訴訟代理人弁護士

河原太郎

河原昭文

岡本健二

被控訴人

中桐昌一

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

水谷賢

右訴訟復代理人弁護士

林秀信

主文

一  原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人らの請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者の主張は、原判決の事実摘示のとおりであるからこれを引用する。ただし原判決五頁五行目「発行は、」の次に「公職の候補者となろうとする者である地方公共団体の」を付加する。

第三  証拠

本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3、6の事実は、当事者間に争いがない。

二  同4の事実について

1  (本件記載1ないし3の違法性)

本件記載1ないし3の本件各号への掲載については、当裁判所も違法と判断する。その理由は、以下のとおり訂正補充するほか、原審の判断と同一であるから、原判決一一頁五行目から同一六頁四行目までを引用する。

(一)  同一二頁六行目から一三頁二行目までを次のとおり改める。

「そもそも『広報さんよう』は、山陽町報道委員会設置に関する条例(乙一)に基づき同委員会が発行する報道誌であり、右発行の目的は『一般町民に対し、町政運営の実情を報道するとともに、世論の動向を把握し、町政の円滑なる運営に資し、あわせて文化的教養の啓発に寄与すること』(同条例三条)にあるのであるから、同誌は町政に関し公正な立場で正確な事実を報道すべき使命を有するというべきである。同誌の本件各号には『町長エッセイ』または『町政報告書』の表題で控訴人作成の記事が掲載されているが、控訴人が現職町長の地位を有することに鑑みれば、右記事内容は同誌の発行目的及び使命に沿い、とりわけ公正さと正確さを保つものである必要がある。そうだとすると、本件記載1は、山陽町長選挙において控訴人に対する支持を求める具体的な文言はないので、公務員等がその地位を利用して選挙運動類似行為を行うことを禁止した公職選挙法一三六条の二第二項四号に違反するとまでは言い難いものの、同町民への支持を訴えたものとして受け取られるおそれがある以上、公正さを逸するものということができ、同条例三条所定の発行目的に反する違法があるということができる。」と改める。

(二)  同一四頁六行目「甲一の三」の次に「弁論の全趣旨により成立の認められる甲八、」を、同行「前掲乙三、」の次に「成立に争いのない乙一一、一二、」を各付加し、同一五頁一行目「これを掲載した本件一〇月号の発行は」を削除し、同二行目「行為」を「もの」に、同一六頁二、三行目「掲載した被告の本件一〇月号の発行は」を「掲載したことは」に各改める。

2  (本件発行の違法性)

被控訴人らは、本件記載1ないし3が違法であることから、その部分のみならず、本件各号の発行自体が違法となると主張する。

しかし、証拠(甲一の一ないし三、乙一、証人砂川恵子、控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件各号は、本件記載1ないし3を掲載するために特に発行されたものではなく、山陽町の報道誌として、同町報道委員会によって毎月一回定期的に発行されている「広報さんよう」の平成六年四月号、七月号及び一〇月号として(いずれも一頁五段組の体裁で、頁数は四月号・二〇頁、七月号・一六頁、一〇月号・二〇頁)、通常の各月号と同様に、山陽町の町政全般にわたる各種広報記事を掲載して発行されたものであること、本件記載1ないし3は、控訴人が同誌に寄稿した町長エッセイ(四月号、七月号)、町政報告書(一〇月号)中の記事であるが、右エッセイ等は町長である控訴人が同誌に継続的に寄稿していたもので、それ自体は「広報さんよう」の発行目的を何ら逸脱するものではないし、本件記載1ないし3は右エッセイ等の一部に過ぎず、かつ、その部分が主題とされたりあるいは特にその部分のみが強調されているわけでもなく、本件記載1ないし3さえなければ、特段問題とされることはなかったこと、分量的にも、右町長エッセイ及び町政報告書が本件各号に占める割合はごく僅かなものであり(四月号は全体が二〇頁であるのに対し町長エッセイは一頁のうちの三段。七月号は全体が一六頁であるのに対し町長エッセイは一頁のうち三段。一〇月号は全体が二〇頁であるのに対し町政報告書は一頁。)、その中で本件記載1ないし3が占める割合は更に僅かなものであること(本件記載1、2につき各四行。本件記載3につき三行。)からすると、本件各号の発行は、全体としてみればその目的に沿ってこれがなされていると言うべく、本件記載1ないし3を看過してこれを掲載した点で違法とされることは免れないとしても、本件各号の発行自体が違法性を帯びるとまでは認められない。この点の被控訴人らの主張は採用できない。

3  (本件支出の違法性)

右のとおり本件発行自体は違法とはいえないから、右違法を前提に本件支出が違法であるとの被控訴人ら主張は採用できない。

もっとも、本件発行自体は違法ではないとしても、本件記載1ないし3の本件各号への掲載が違法であることは前記認定のとおりであり、そうすると、本件支出のうち右部分の掲載に要した発行費用を特定できるとすれば、右費用に関しては違法な公金の支出となると考えられないでもない。しかし、そうとしても、前記のとおり本件記載1ないし3は継続的に掲載されている町長エッセイ及び町政報告書の一部であり、本件記載1ないし3のために特にこれが掲載されたものではなく、また、その分量も微々たることに照らせば、本件記載1ないし3のために本件各号につき通常の発行に比し特別の発行費用の増加があったとは認め難く、また、本件支出のうち右部分の掲載に要した発行費用を特定するに足る証拠もないから、本件支出のうちに違法な公金支出となる部分があることを認めることができない。

よって請求原因4は理由がない。

三  結論

以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、被控訴人らの請求は棄却すべきであるから、原判決中、控訴人敗訴部分を取り消し、民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅田登美子 裁判官 上田昭典 裁判官 市川昇)

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